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「甘い恋」SS

「弘兄、明日なんだけど、出勤時間をずらしてもいいかな?」
夕方、バイト先であるパン屋・石森を訪れるなり、要二は厨房に声をかけた。斜めがけにした鞄を下ろしながらレジを抜け厨房に足を踏み入れる。
「あれ?」
いつも店主である従兄弟の弘毅は、このさほど広くはない厨房に一人こもって黙々とパンを焼いていた。最近は店が繁盛しているため、休憩もほとんどとらずにひたすら作業している。
ところが、今ここには誰の姿もない。客がいないとはいえ店もまだ開けているのに、いったいどこに行ったのだろう。
要二はとりあえず着替えようと、厨房の奥に設けられた更衣室へと向かった。
「うわっ」
要二がドアノブに手をかけたと同時に、ドアが内側へと大きく開く。ノブを掴んでいた要二もそれに引きずられ、体勢を崩してしまった。
「わぷっ」
前のめりに数歩たたらを踏むと顔が壁にボスンッとぶつかった。しかしぶつかったわりに痛みはなく、そもそもこんなところに壁などなかったはずだ。
「......弘兄?」
顔を上げると間近に弘毅の精悍な容貌があった。
「なんだ、ここにいたのか」
そう言いながら、もたれかかっていた弘毅の体から身を離す。
「オレも着替えたらすぐ行くから、早く店に戻って......」
その言葉が途中で途切れる。この店の従業員は弘毅と自分だけ。だから更衣室に他に人はいないと思ったのに、弘毅の後方で落ち着かない様子で視線をさ迷わせている悠に気づいた。
「平岡さんもいたんですね」
「あ、ああ、うん」
「二人でこんなところで何を?」
当然の疑問を投げかけると、悠が顔を微かに赤らめる。そしてあきらかに動揺した様子で視線を逸らし、なんと答えるか必死に考えているようだった。
「悠さんにはお前がいない時に、たまに手伝ってもらってるんだ」
困窮した悠を見かねてか、弘毅がかわりに質問に答えた。彼はどんな時も冷静だ。眉一つ動かさない。反対に悠はといえば、弘毅の言葉に頷いて同意するのが精一杯といった感じだ。
要二は悠を落ち着かせるため、ニコリと微笑んだ。
「そうだったんですか。平岡さんにはお世話になりっぱなしですね。色々と協力していただいて、ありがとうございます」
「いや、礼を言われるほど役に立ってないから」
要二は曖昧に笑う悠の横をすり抜けると、ロッカーを開け鞄を中にしまう。
「後はオレが引き継ぎますから、休んでてください」
取り出したエプロンをつけ、身支度を整えながらそう言うと、ようやく悠が肩の力を抜いたのが視界の端に映った。
「それじゃあ、後はよろしく」
「お疲れさまです」
悠は弘毅と連れ立って更衣室を後にした。
扉が閉まるのを確認し、要二は置いてある丸イスに腰をおろす。身支度は終わったのですぐにでも店に出られる。しかし要二はイスに座ったまま動こうとはしなかった。
――あれでバレてないと思ってるのかな。
彼らが付き合っていることにはとっくに気づいている。二人がそのことを言ってこないから気づかないフリを続けているが、そろそろ限界だ。いくらなんでもわかりやすすぎる。
特に悠に関しては要二に隠していることが後ろめたいのか、二人の関係を誤魔化すための小さな嘘をつくだひに、気の毒なほど申し訳なさそうな顔をする。それならいっそのこと言ってくれたらいいのに。しかし悠の性格を考えたらそれは容易なことではないのだろう。
「そろそろいいか」
要二はようやくイスから立ち上がった。これだけ待てば悠も落ち着きを取り戻し、弘毅も仕事に戻っているはずだ。
そっとドアを開けてみた。念のため厨房の様子を 窺うと、悠の姿はなく弘毅が一人で作業台の前に立っていた。
要二はドアを大きく開け、弘毅に歩み寄った。
「弘兄、明日のことなんだけど......」
背後に立ち声をかける。しかし弘毅は一点を見つめたままで、こちらに気づいていないようだった。
――何を見ているんだ?
彼の視線を辿っていくと、その先にいたのは悠だった。
悠はデザートパンが並んだ棚の前に立ち、真剣な表情でパンを吟味している。そしてようやくトングで一つパンを掴みトレイに載せたと思ったら、先程より険しい顔で再び棚を見つめ出した。要二も悠の動向を見守っていると、彼はそろそろとトングでパンを掴もうとし、けれど何も取らずに引っ込めて......という動作を繰り返した。どうやらもう一つ買おうかどうしようか迷っているようだ。
そういえば、少し前も同じようなことをしていた。理由は聞かなかったが、一時期悠はパンを食べなくなったのだ。もちろん弘毅もそれに気づき、とても心配していた。
その時の弘毅の様子を思い出し、要二は彼の硬質な横顔を見やる。
弘毅は棚の前で難しい顔をしている悠を鋭い眼差しで見つめていたが、悠が結局追加のパンを取らずにレジに向かって来たのを確かめた瞬間、フッと口元を綻ばせた。
要二はそのままレジに向かおうとした弘毅の肩を掴んで止める。
「オレがレジするから」
「なんだ、いたのか」
「いましたとも」
少々がっかりしている弘毅を残し、要二は自分の持ち場であるレジに向かった。
悠の買ったパンを袋に詰め彼に手渡す。平静を取り戻した悠は、いかにも仕事が出来るエリートサラリーマンといった雰囲気を漂わせていた。
「また来るよ」
紙袋を手にし微笑んだ悠に、要二も満面の笑みを返す。
「いつもありがとうございます。これからも、弘兄のことをよろしくお願いします」
要二がそう言うと、彼は驚いた表情をした後、顔を真っ赤にし、そしてすぐに真っ青になった。そのあまりの困惑具合になんだかかわいそうになって、「弘兄、あまり友達がいないから」と付け足した。
悠はホッとした表情で頷くと、逃げるように店を出ていった。
――二人にはこれからも仲良くしてほしい。
弘毅には幸せになってほしいのだ。これまで苦労をしてきたから。
厨房で黙々とパンを作っている弘毅をチラリと見やる。悠を見つめていた時のような柔らかさはもう消えていた。
――いつか言えたらいいな。
無愛想だけれど優しい従兄弟に。その彼を笑顔にしてくれた悠に。
ありきたりだけれど、末永くお幸せに、と伝えたい。
しかし彼らの口から真実を聞き、心から二人を祝福出来るその日まで、要二は知らぬフリを続けようと決めたのだった。



――――終――――











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2014年10月31日(Fri) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)

『甘い恋』・裏話

10月31日に初の新書『甘い恋』が発売されました。

本当に細々と、ゆっくりと、時には心が折れそうになりながらも書き続けてきましたが、こうして一冊の本として書店に並べていただくことができ、とても嬉しく思っております。
これもひとえに応援してくださった皆様のおかげです。「おもしろかった」の一言をいただけるだけで、どれほど励みになったことか……! ありがとうございます!


前置きが長くなりましたが、以下に『甘い恋』の裏話を書きました。
といっても、一度雑誌掲載をされた作品ですので、前のブログからその時の記事を引っ張ってきています。新書になってからお読みいただいた方もいらっしゃると思いますので載せておきますね。
それでは以下裏話になります↓



この話は「とにかく自分の好きな物を書こう!」というコンセプトのもと思いついた物語です。
そのため登場人物の職業は、パン屋×インテリアコーディネーター。パンとインテリア、私の好きな物を詰め込みました。

この小説で出てくるパン屋さんにはモデルがあり、改装後の内装についてはMというパン屋さんを参考にさせていただきました。
こちらは魔女の宅急便で出てくるパン屋さんをモデルにしているようで、レジの横にジジの置物が置いてあります(^
^)
このパン屋さんにもよく行くのですが、とにかくデザートパンが豊富で、甘党の私は行くたびに密かにテンションが上がり、トングを構えながら思わずニヤニヤしてしまいます(笑)
そしてもう一つ嬉しいことが……。
このパン屋さん、午後5時を過ぎると売れ残ったパンをおまけでつけてくれるのです!
パンをトレイに乗せてレジに行くと、奥から店主である男性がのっそり出てきて、棚に乗っているパンを2つ3つ手にし無言で紙袋に詰めてくださいます。この時間に行くと必ずパンが2倍になるという……。パン好きな私にはとても嬉しいサービスです♪
このお店の店長さんが印象的で、弘毅のモデルにもさせていただきました。

そしてもう一軒、Pというパン屋さんにも通ってます。
こちらは内装には凝っていないのですが、リーズナブルでおいしいパンを置いています。
このパン屋さん、新作のパンが出るペースがとんでもなく早い!
行くたびに新作が並んでます。
ですがその反面、少し残念なことも……。
棚のスペースが限られているので、定番メニュー以外は2週間ほどで下げられてしまうのです(; ;)
もう一度食べたい! と思って通っても、タイミングを逃すと二度とそのパンには巡り合えないという悲しい運命……。
そんな思いから、私がもう一度食べたいと切望している和風パスタサンドを作中に登場させました(笑)
これ、本気でもう一度食べたいです!


上記二つのパン屋さんをミックスさせて出来たのが、弘毅の経営するパン屋さんです。
どちらのパン屋さんにも小説のモデルにさせていただいた旨はお伝えしておりませんが、本当にありがとうございました(^ ^)




さて、次は本編とはあまり関係ない話ですが、きっと小説を書いた事のある人なら一度は体験するであろうことだと思う、やっちまったエピソードを、恥を忍んでアップしたいと思います(笑)
今日の分は本当にしょうもない話ですので、スルーしてくださってもけっこうです(^^;)

何を隠そう、今回の攻・弘毅には実はかなり苦しめられました。
雑誌掲載作の初稿を書き出した時からその苦しみは始まり、弘毅がかなり無口なことで、受・悠と同じく私も彼の気持ちがわからず四苦八苦(> <)
毎日毎日、小説を書いていない間も弘毅のことばかり考えていました。

そんな日々を続けたからでしょう……。
人の名前を呼び間違えるという大変失礼なミスを犯しました(; ;)

それは友人Hくんと話していた時です。
「弘毅くん、あのさぁ」と話しかけたのですが、Hくん無言。
再度、「ねえ、弘毅くん」と呼びかけるも反応なし。
なんだよ目の前にいるのに無視するのかよ、と思い、強めに「弘毅くん、聞いてる!?」と言うと、Hくんが微妙な顔をしつつ「俺、弘毅じゃないんだけど……」と……。
私、この時になってようやく名前を呼び間違えていることに気付きました。
ナチュラルに口から『弘毅』って出てしまっていたのです。言い訳させてもらうと、ちょっと似ていたんです(^^;)
ですが、本当に申し訳ないことをしてしまいました!!
一ヶ月以上、朝から晩まで弘毅のことを考えていた弊害がこんなところに!
ちなみにHくんは私がBL小説を書いていることを、この時まだ知りませんでした(^ ^ ;)

そんな友人に、まさか自分の書いているBL小説の攻キャラの名前と間違って呼んでしまっただなんて口がさけても言えず、動揺しまくった末に、「ごめん、弘毅って人と間違えた! 弘毅はね、パン屋さんなの。若くして自分のお店を持っておいしいパンを焼くんだけど、立地条件が悪くてお客さんがあんまり来なくて大変なんだ。でも無口だからそういうことをペラペラしゃべる人じゃないから、私、弘毅の気持ちがわからなくて……。だから最近弘毅のことばかり考えててうっかり間違っちゃったんだ、ごめん!」と一気にまくしたててました(苦笑)
私のその勢いに押されたようで、Hくんは「……そっか」と言いそれ以上の追及はしないでくれましたが、絶対に変な人だと思われたことでしょう。
こんな失礼なことを二度としてはいけないとそれから注意していたのですが、その後も気を抜くとやっぱり「弘毅」と呼んでしまいました。
さらに小説を書き進めるにつれ、あまりにもそれが頻繁になっていったので、Hくんには後日正直に事実をお伝えしました(^ ^ ;)
男性にBL小説を書いているという告白をするのはけっこうな勇気を要しましたが、実は決意した裏にはもう一つ決め手があったのです。

実はこのHくんのご親戚にパン屋さんがいるとのこと。
今回、パン屋さんが舞台ということで自分なりに下調べをしたつもりですが、やはりわからないことも多々ありました。
小説を書いていると言う前にもさりげなくパン屋さんのことについてお聞きしたのですが、あまり情報は得られず……。
パンを実際に焼く場所が『厨房』であっているのかどうかをどうしても知りたかった私は、Hくんに事実をお伝えすることを決心したというわけです。
……ええ、私が今回一番こだわった部分が、『厨房』という呼び方であっているのかどうか、です(笑)
もっと他のところも気にしろよ、って感じですが、ページ数の関係もありパン屋描写はあまり入れられませんでした。
パン屋大好きなのでそこがちょっと残念でもありましたが、BL小説を書いていると告白したことにより、Hくんの協力を得られ、ご親戚のパン屋さんに確認をしていただき、無事に「厨房でいいみたい」という回答を得ることが出来ました!
変な質問にお答えくださり、ありがとうございました(> <)



今回の教訓を胸に、今後もBL小説を書き続けていきたいと思います。
微妙な裏話でしたが、私と同じく小説を書かれている皆さま、名前の呼び間違いにはお気を付け下さい(笑)


2014年11月01日(Sat) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)

『甘い恋』・おまけの裏話

新書からお読みいただいた方もいらっしゃると思うので、せっかくなのでもう一つ裏話をさせていただきます。


コミコミスタジオさまの特典で、ショートストーリーのペーパーをつけていただいたことは当ブログでもお知らせいたしました。
元々、こういった番外編のSSを書くのも読むのも大好きなため、二つ返事でお受けしたんです。
ですが、どうしたことか、お話がさっぱり思い浮かばず……。いえ、正確には色々と浮かんではいたのですが、どれも『ショート』ではすまなくなりそうな長さの話でして……(^^;)
その中で、これはどうかな、というものがあったので、友人に相談してみることにしました。
ところが……。

私「番外編ってことは、その後の二人の様子を書く感じになるよね?」
友人「うん、そうだね」
私「それなら、こういう話はどうかな。……定年退職をした悠が、店を手伝うようになって、二人でパン屋を切り盛りしていく話は」
友人「……それはその後すぎるんじゃなかな!? もう少し、本編が終わってちょっと後くらいの方がいいと思うよ!」
私「ちょっと後かぁ…………はっ、ひらめいた!!」

という経緯で書いたのが、『甘い休日』です。
こちらはコミコミスタジオさまの限定特典になっておりますので、お手元にない方のために少しだけ内容を書きますと、悠が初めてパン作りに挑戦するという話になってます。無口な男の心の内をお見せしたいと思い、弘毅目線で書いてみました。
友人の助言がなければ、危うく還暦を過ぎた二人の老後の話をお届けするところでした(^^;) 友人に感謝です。



そしてそして、新書発行にあたり、多くの人のお力をお借りしました。
特に今回から担当くださることになったMさまには、大変お世話になりました。
雑誌掲載作の直しも遅々として進まない中、一身上の都合で長々とお休みをいただいてしまい、復帰後、大急ぎで作業を進めたため、文章に色々とアラが出てしまい、結果、最後の著者校正の段階でありえないほどの大量の加筆修正をしてしまいました(>_<) おかげで読むのが困難なほどゲラが書き込みでグチャグチャに(;_;)
小説を書いていて初めて、「もうダメかもしれない」、「終わらないかもしれない」、「間に合わなかったらどうしよう」という恐怖&眠気と戦いながらの作業になりました。
おかげで最後の二日間は寝ていないこともあり、記憶が飛んでます(^^;)
というか、お休み明けからの記憶が曖昧です……。
そんなどうしようもない私を見捨てずにゴールまで導いてくださり、ありがとうございました!

また、イラストを担当してくださった木下けい子先生にもご迷惑をおかけしてしまいました。
校正もまだの中途半端な原稿をお渡ししたにも関わらず、あんなに素晴らしいイラストを描いてくださりありがとうございます!
どれもとても素敵ですが、特にキスシーンのイラストが私のお気に入りです(^^) 色気漂うイラストにドキドキしました!
本当にありがとうございました!


そして最後になりましたが、拙作をお手に取ってお読みくださった皆さま。
本当に本当にありがとうございます!!
これからも頑張って書き続けていこうと思っておりますので、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。



2014年11月02日(Sun) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)

『追憶の果て 密約の罠』裏話

本日、『追憶の果て 密約の罠』が発売されました。
前回と同じく、今日この日を無事に迎えられるのか、色んな意味でドキドしておりました!
先ほど書店に行って店頭に並んでいるのを確認し、ようやく一安心しました。よかった、夢じゃなかった、と(笑)


さて、これから先は、恒例の裏話的なお話をさせていただこうと思います。
今作ですが、あとがきにも書きましたように、華やかに・豪華に・セレブ感たっぷりに、をテーマにして書いたお話です。
何が一番大変だったかというと、攻のセレブっぷりを出すのにとても苦労しました。
久納の職業、最初は建設会社社長とか、宝石商とかだったんです。ですが、もっとハイグレードな仕事で! とのお達しを受けまして、プロットを立てる段階ですでに私一人では想像力の限界を迎えてしまいました。
そこで、いつもお世話になっているお友達のKちゃんに協力を仰ぎ、「世界中に取引先を持つ貿易商」という案をいただき使わせていただいた次第です。

このように、プロットから何度も躓いて担当さまのアドバイスをいただきつつ書きなおしを重ねました。その結果、プロットが通るまで、およそ二ヶ月もかかってしまったという……。
こんなにプロットで苦労したのは初めてでした。
どんだけセレブが書けないんだ、私(/_;)

ですが、おかげでお話の幅が広がったように思います。
もう、豪華客船についてとかホテルについてとか、調べまくりましたから!
次、またセレブを書く機会があっても、ここまでの苦労はしなくてすみそうです。
ただ、悲しいことに、今作で調べた成果をあまり出すことができませんでした……。ページ数をオーバーしまくりで、色々削って削って……、だったので(>_<)


そうそう、他にも後ですごく後悔したことがあります。
それは大月です。
はじめから彼が犯人だと決まっていたのですが、書いていくうちにどんどん愛着が湧いてきまして……。というか、こういうキャラ、大好物なんです! 秘書、最高です!
それをなぜ、裏切り者にしてしまったのか……!
すごく後悔しました。
でももう後戻りは出来ず、涙をのんで大月を犯人にしました。
捕まっちゃったんだから無理かもしれないけど、いつか彼のその後のお話を書きたいです。彼なりの幸せを見つけてくれればいいな、と思ってます。


総合的にみて、今作は色々と迷走したお話でした。
主人公の真琴にしても、攻の久納にしても、主軸に据えた四年前の銃器密輸事件についても……。
おそらく、書く人が違えばもっと骨太で読みごたえのある作品になったと思います。
私もそういった事件性も楽しめるようなお話を目指したのですが、悲しいかな、目指したようなお話に仕上げる筆力が私にはありませんでした。
それでも現在の私の全力を注ぎこんだお話です。もしほんの少しでもおもしろかった、と思っていただけたら、これほど嬉しいことはありません。


以前、当ブログでもご紹介しましたが、コミコミスタジオさまでは特典として小冊子をつけていただいております。
内容は本編終了後、一ヶ月ほど経った頃のお話です。久納との遠距離恋愛に悩む真琴が、探偵事務所の同僚・吾妻に相談をもちかけて……といったお話。
実は、もっと探偵事務所の方々を本編でも登場させたかったのですが、こちらもページの都合で泣く泣くカットしたという経緯があります。その無念をこちらで発散させていただきました(笑)
こちらもお読みいただけると幸いです。

あ、これまでと同様、感想のお手紙をくださった方には、書きおろしのSSペーパーをお送りさせていただこうと思ってますので、よろしくお願いいたします。


さてさて、ずいぶん長くなってしまいましたね。
こうして二冊目が出せたのも皆さまのおかげです。
この本に携わってくださった全ての方々に感謝しつつ、また次作でもお会い出来ることを願っております。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。

2015年08月31日(Mon) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)

『追憶の果て 密約の罠』番外編SS

 真琴はその日、空港の入国ゲートの前に立っていた。待つこと数分、定刻通りイタリアからの便が到着し、たくさんの人がゲートから出てくる。
「久納さん」
 待ち人の姿を発見し、小さく手を上げる。彼も気付いたようで、こちらに真っ直ぐ歩いてきた。
「お疲れ様です」
 久納に会うのは二ヶ月ぶり。久しぶりに会う恋人を前に、嬉しさと気恥ずかしさが入り混じった落ちつかない気持ちになる。
「久しぶりだな。変わりはないか?」
「はい」
 久納の厳しい顔がかすかに和らぐ。自分の存在がそうさせているのだと思うと、真琴の顔も自然と綻んだ。
 久納と真琴は迎えの車まで並んで歩いた。
 次に会った時に聞こうと思っていたことがたくさんある。けれどこうして実際に彼を前にすると喜びで胸がいっぱいになり、質問事項など吹き飛んでいた。
 しかし、久納と一緒にいられる時間は数日しかない。短い休暇を終えたら、久納はまた仕事で世界中の国を行き来する生活に戻る。次に会えるのはまた何ヶ月も先になるだろう。
 それがわかっているから限られた時間を有効に使おうと考えていたのに、ずっと会いたくて焦れていた恋人を前にしたら言葉が出てこなくなってしまった。
 真琴が、何か話さなくては……、と考えを巡らせていると、先に久納から話しかけられた。
「その色、よく似合っている」
 何を言われているのか一瞬わからなかったが、どうやら服装を褒めてくれたようだ。
 真琴が今着ているのは、ブルーのテーラードジャケットに白いシャツ、下はブラックに近いネイビーのパンツ。少し若づくりな気がしていたが、久納に褒められて素直に嬉しい。
 真琴は照れたようにはにかみながら打ち明けた。
「実はこの服、職場の同僚に選んでもらったんです。今日、久しぶりに恋人に会うと言ったら、少しはお洒落した方がいいと言われて……」
 以前、吾妻には恋人から連絡が来ないという相談に乗ってもらった。結果的にお互い遠慮して電話出来ずにいただけだったので、その後は一、二日おきくらいの頻度で連絡を取り合うようになった。
 そうしたことから時々、その後順調か聞かれることがあったのだが、今回恋人と会うということを話したら吾妻の方から服の見立てを申し出てくれたのだ。
 初めは断った真琴だったが、言いづらそうに「まこっちゃん、服の趣味が独特だから……」と指摘され、いつだったか事務員の藤沢にも同じような指摘をされたことを思い出し、吾妻に任せることにした。
 元々、真琴はあまり服に興味がなく、仕事着のスーツは何着もあるが、私服は数枚しか持っていなかった。それも、着古したものばかり。
 だから正直、吾妻の申し出はとてもありがたいものだった。
 そして吾妻に上から下まで見立ててもらい、その格好で今日久納を迎えに来た。いつもより明るい色の服のため不安もあったが、久納のお眼鏡にかなったようで安堵する。隣を歩く久納に恥ずかしい思いをさせずにすむ。
 ところが嬉しそうに微笑む真琴を見て、久納は眉間に皺を寄せた。急に口をつぐんだと思ったら、行き先も告げられぬまま車に乗せられる。車内で何度か話しかけたが、久納は短い返事をするばかりでまるで会話が弾まない。不機嫌な顔で黙り込む久納の様子に、真琴の口数も減っていく。
 やがて重苦しい空気に包まれたまま、車はホテルの前へ横付けされた。真琴も久納の後について部屋に入る。
 以前滞在していたホテルとは別の、都内の高級ホテルのスイートルーム。久納は部屋に着くなり上着を脱ぎソファへ放り投げた。
 真琴は久納の纏う不機嫌な空気の理由がわからず、部屋の隅で立ちつくしていた。
 すると久納が振り返り大股で近づいてきたかと思ったら、おもむろに真琴の着ていたカーディガンを剥ぎ取ったのだ。
「く、久納さんっ?」
 突然のことに驚いて声が上ずる。
 いったいどうしたのだろう。何か彼の気に障る事をしてしまったのだろうか。
 真琴が困惑している間にも、久納は無言で次々に服を剥いでいく。なすがままになっていた真琴だが、上半身から全ての衣服を奪われ、さらにベルトに手をかけられたところで久納の手首を掴んだ。
「久納さん、どうしたんですか?」
 一刻も早く恋人に触れたくて、というのなら嬉しいが、これは違う気がする。久納の瞳は自分を映していない。真琴のことではなく、別のことを考えているように感じた。
「せっかく会えたのに、こんなふうに触れてほしくないです」
 真琴は久納を見つめ、思っていることをそのまま伝えた。
 久納は真琴の真っ直ぐな眼差しを受け止め、やがて身体から力を抜いた。身をかがめ自らの手で床に落としたシャツを拾い上げると、真琴の肩に着せかけてくれる。
「すまない」
 久納は真琴の肩に手を置いたまま、難しい顔で謝罪を口にした。見上げた淡褐色の瞳には、もう激情を宿していない。
 真琴がホッと息をつくと、久納が視線をさまよわせながら綺麗にセットされた髪をかき上げた。
「私としたことが……、嫉妬に目がくらんでしまった」
「嫉妬?」
 久納は気まり悪そうな顔をしながらも、ちゃんと説明してくれた。
「お前が私以外の人間が選んだ服を着ていることが、許せなかったんだ。怖がらせてすまなかった」
「久納さん……」
「お前は何も悪くない。これは私の我が儘だ。お前を着飾るのも、恋人である私だけの特権だと思っていたから……」
 なんだろう、胸がむずがゆくなる。不快ではないのに、落ちつかない気持ちになった。
 彼に嫉妬してもらえて嬉しいと、そんなことを思ってしまう自分が恥ずかしい。けれど、これが事実。
 久納だって、恐らく言いづらかったはずだ。それでも自分の不安を取り除くために言ってくれた。
 それがわかったから、真琴も気恥ずかしさを押し込めて、正直な気持ちを伝えようと思った。
 真琴は背伸びをして、自分のそれで久納の唇を塞ぐ。
「……何をしているんだ」
 彼が着せかけてくれたシャツを自ら落としベルトを抜き取ると、久納が訝しげな視線を送ってきた。真琴は羞恥心を押し込めながら、自らパンツを下げ下着一枚という無防備な姿になる。
「おい?」
 久納は珍しくうろたえていた。真琴が何をしたいのか、まだ彼には伝わっていないようだ。
 真琴は深く息を吸い込み言葉を発した。
「これでいいですか?」
「いや、もういいんだ。私が悪かった。服を……」
「よくありません」
 再びシャツに手を伸ばそうとする久納を遮る。彼の視線がこちらに向く。真琴は目を逸らすことなく続けた。
「僕はあなたに嫌われたくない。あなたが嫌だと思うことはしたくないんです」
「嫌いになどならない。私が勝手に嫉妬しただけ。私の器が小さかったというだけのことだ」
 真琴は頭を左右に振った。気持ちを上手く言葉に出来ないことがもどかしい。
「あなたの傍にこうしていられるだけで幸せです。でも、僕にはこの先もあなたを繋ぎ止めておく自信がない。だから、嫌われないように努力しようと決めたんです」
 少しでも長く自分に引き止めておくために、会えない間に真琴は考えた。本当はもっと好きになってもらうために努力したい。けれど、どうしたらいいのか具体的に思い浮かばず、それならせめて嫌われないようにしようと思ったのだ。
 想いの丈を全て伝え久納を見つめていると、いきなり両目を手で覆われた。驚いて無意識にそこに手の平を重ねると、久納に「このままで」と制止され、真琴は大人しく従う。
 久納はたっぷり間を置いた後で言葉を発した。
「そんな目で私を見るな。そうやって素直な感情をストレートにぶつけられると……困ってしまう」
 最後の一言が胸に突き刺さり、真琴は息をのむ。
「……すみません」
 絞り出した言葉は謝罪だった。
 自分の想いが彼の負担になっている。
 それはとてもショックなことだったが、彼を困らせたいわけではない。
 ところが、真琴が震え出した唇を噛みしめると同時に、久納が予想外の言葉を口にした。
「お前に見つめられると、自分の感情をコントロール出来なくなってしまうんだ。年甲斐もなく恋に浮かれて、仕事も何もかも放り出してしまいそうになる。お前の恋人として恥ずかしくない男でありたいと思っているのに」
「そんな……。それは、僕の方です。あなたの隣に立つのにふさわしい人間にならなくちゃって……」
 久納がフッと笑う気配がした。そしてようやく目隠しを解かれ、その瞳に彼の姿を映すことが叶った。
 完璧に見える恋人は、自嘲気味に笑いながら打ち明けてくれた。
「私はお前が思っているほど、上等な人間でも、出来た恋人でもない。恋人の同僚にさえ嫉妬する、恋に狂ったただの男だ」
 その言葉を聞いた瞬間、胸が強く締め付けられた。
 そして彼が自分をどれほど想ってくれているのか、それを本当の意味で悟った。
 ――彼ほどの人でも、不安になるんだ。
 容姿に恵まれ、仕事もでき、社会的に成功者と言われるような男でも、恋をすれば臆病になる。
 失いたくないから。
 その対象が、自分のような平凡な人間だったとしても。
「……あなただけじゃない、僕もです」
 考えるより先に口をついて出ていた。けれど久納は慰められていると思ったのか、複雑な顔をして黙り込んでいる。
 真琴はもう一度、言葉を紡ぐ。
「僕も同じ気持ちです」
 本心からの想いを伝える。
 しばらくして久納が「かなわないな」とポツリと呟いた。
「どういう意味で……んっ」
 まるでこれ以上、追及するなとでも言っているかのように、唐突に唇をキスで塞がれた。
「んぅ、ふっ……っ」
 ――ずるい。
 この男はわかってやっているのだろうか。
 こんなふうにキスされたら、他のことなどどうでもよくなってしまう。真琴は彼の全てを許してしまうのだ。
 真琴は背中に腕を回し、恋人を抱きしめた。ついばむだけだった口づけが、途端に大胆になる。
「久納さ……」
「黙れ」
 キスの合間に下された命令。
 その低い声音に、六月の雨の日、探偵事務所で久納と顔を合わせた時のことを思い起こされた。
 あの時はこうなるだなんて想像もしていなかった。
 自分よりも年上の男を、こんなに愛しく思うようになるだなんて……。
 久納にソファに押し倒され、圧し掛かられるだけでゾクリとした興奮が背筋を駆け抜ける。
「あぁっ」
 素肌をまさぐられ、真琴は大きく胸を喘がせた。
 我を忘れるほどの想い。
 幸せなはずなのに、彼のことを想うと胸が甘く締め付けられる。
 甘いだけで終わらない関係。
 これが恋なのだと、今ようやくわかった気がした。



     ――終――

2015年08月31日(Mon) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)

「高校教師と十年の恋」 裏話的な……

この記事は、6月30日発売の「高校教師と十年の恋」の製作秘話のようなものになってます。
本編のネタばらし的なことは書かないので、まだお読みでない方もお気軽にご覧いただけます(^^)
自分の振り返りの意味も含めて書いたため、本当にたいしたことないお話ばかりですので、読み飛ばしていただいても大丈夫ですよ~。

以下より始まります⬇

このお話を思いついたきっかけは、「可愛いおっさん受が書きたい!」という想いからでした。
これまでも何度か挑戦してみましたが、私の人生スキルが足りないせいか、どうしても設定年齢に中身が伴わず、改稿するたびに若くしていき、最終的に30前後に落ち着く、という流れでした。
そこで、今回こそは! と、私の一番好きな年齢の受でいこうと決意!
そう、文則は当初、42歳設定だったんです。
お読みになった方は「ん?」と思われたでしょうが、すみません、今回も初志貫徹ならず( ノД`)… 35歳で落ち着きました(-.-)

あと、物語の中で大事な役割を果たしている星について。
これも、実は思い付きで加えた設定でした。
プロットを考えてる時、たまたま宇宙に関する映画を観て、星に詳しくなかった私に家族が惑星について熱弁。あまりにも長々と語られたので、ついその熱い想いを組み込んだ次第です。

そして、文則を天文部の顧問にするにあたり、なんの教科の担当にするかも悩みました!
最初は別の教科担当でしたが、星に詳しそうな教科は……、と悩み、物理教師に。
物理教師に変更します、と後日担当さんにお伺いを立てた際に「いいですが……大丈夫ですか? 物理って難しそうですけど」と心配されたのが印象に残ってます(笑)
やはりそう思いますよね! 私も難しそうだなって思いました!
だって、根っからの文系人間ですから。物理って何を教わるんだっけ? から調べましたよ~。

今回、ちょこちょこ高校の描写が出てきますが、自分の学生時代なんてはるか昔すぎてどうだったか忘れてまして、本気で母校を訪ねようか考えちゃいました。思い止まりましたが(笑)
なので、担当さんからいただいたアドバイスをかなり拝借いたしました。ありがとうございました!
桜を北見のことを思い出すキーワードとして使うことも提案していただき、がっつり使わせてもらってます!

あ、桜と言えばカバー折り返しのコメントにも書きましたが、桜の描写をするにあたり気分を高めようとお花見に行きました。
花を見ることがメインの目的だったので、穴場スポットを選んだので、存分に桜の美しさを堪能出来ました!



屋台も五つくらいしか出てなくて、皆さんお弁当を持参してきてる方が多かったです。
クレープもなかった……残念です(>_<)
人形焼きの屋台はあったので買ったのですが、そこのお姉さんに「自分たち、東京から今来たとこなんですけど、ここってすごく桜が綺麗なんですね」と話しかけられました。
私が相づちを打つと続けて「でも、お客さんが全然いないですけど……」と苦笑いしながらおっしゃいました……。
すみませんすみませんすみません。ここ、地元民くらいしか来ない、知る人ぞ知る花見スポットなんです。
ここらへんで花見なら、街中の公園が有名で、皆そこに行ってしまうんです。
わざわざ遠征してきてくださったのに、田舎で人いなさすぎてすみません(T_T)
と、なぜかお姉さんに謝りまくって、お花見を終えてました。
ただ、私は毎年こっちでお花見してます。人ごみ疲れるので(^_^;)
今年の桜も見事でした‼

そして、最後は前作でも悩んだタイトルについて。
今作でも悩みまくりました!
あとがきでも触れましたが、家族にも相談までしたのに、いい案が出ず……。
何個が自力で頑張ってそれっぽいタイトル考えました。……が、やはりボツ(;_;)
結局、今作も担当さんにつけていただきました。何から何まで申し訳ありません~。
そういえば、タイトルを相談した時に家人に「あんな長い文章かけるのに、なんでタイトルがつけられないの?」と不思議そうに言われました。
ふふっ。違うよ、短くまとめられないから長い文章で説明してるんだよ。一言で全てを伝えられるなら、小説を書いてない(私の場合は)。
と上記のように返したところ、すごく納得されました。
そんなやり取りを経ての「高校教師と十年の恋」というタイトル! これぞ、ザ・要点が凝縮されたタイトル!
このタイトルを候補として出された時、思わず「あぁ! こういうふうに付ければいいんですね!」と言ってました。
今回学んだことや反省点を、次作に生かせたらなぁ、と思います。

今作も現在の持てる全ての力を出して書きました。
読んでくださった方のお心に何か残せていたら幸いです。
もし読んだ感想などを一言でもいただけますと、とても嬉しいです。
ではでは、こんなところまでお読みくださり、ありがとうございました。
2017年07月01日(Sat) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)