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「甘い恋」SS

「弘兄、明日なんだけど、出勤時間をずらしてもいいかな?」
夕方、バイト先であるパン屋・石森を訪れるなり、要二は厨房に声をかけた。斜めがけにした鞄を下ろしながらレジを抜け厨房に足を踏み入れる。
「あれ?」
いつも店主である従兄弟の弘毅は、このさほど広くはない厨房に一人こもって黙々とパンを焼いていた。最近は店が繁盛しているため、休憩もほとんどとらずにひたすら作業している。
ところが、今ここには誰の姿もない。客がいないとはいえ店もまだ開けているのに、いったいどこに行ったのだろう。
要二はとりあえず着替えようと、厨房の奥に設けられた更衣室へと向かった。
「うわっ」
要二がドアノブに手をかけたと同時に、ドアが内側へと大きく開く。ノブを掴んでいた要二もそれに引きずられ、体勢を崩してしまった。
「わぷっ」
前のめりに数歩たたらを踏むと顔が壁にボスンッとぶつかった。しかしぶつかったわりに痛みはなく、そもそもこんなところに壁などなかったはずだ。
「......弘兄?」
顔を上げると間近に弘毅の精悍な容貌があった。
「なんだ、ここにいたのか」
そう言いながら、もたれかかっていた弘毅の体から身を離す。
「オレも着替えたらすぐ行くから、早く店に戻って......」
その言葉が途中で途切れる。この店の従業員は弘毅と自分だけ。だから更衣室に他に人はいないと思ったのに、弘毅の後方で落ち着かない様子で視線をさ迷わせている悠に気づいた。
「平岡さんもいたんですね」
「あ、ああ、うん」
「二人でこんなところで何を?」
当然の疑問を投げかけると、悠が顔を微かに赤らめる。そしてあきらかに動揺した様子で視線を逸らし、なんと答えるか必死に考えているようだった。
「悠さんにはお前がいない時に、たまに手伝ってもらってるんだ」
困窮した悠を見かねてか、弘毅がかわりに質問に答えた。彼はどんな時も冷静だ。眉一つ動かさない。反対に悠はといえば、弘毅の言葉に頷いて同意するのが精一杯といった感じだ。
要二は悠を落ち着かせるため、ニコリと微笑んだ。
「そうだったんですか。平岡さんにはお世話になりっぱなしですね。色々と協力していただいて、ありがとうございます」
「いや、礼を言われるほど役に立ってないから」
要二は曖昧に笑う悠の横をすり抜けると、ロッカーを開け鞄を中にしまう。
「後はオレが引き継ぎますから、休んでてください」
取り出したエプロンをつけ、身支度を整えながらそう言うと、ようやく悠が肩の力を抜いたのが視界の端に映った。
「それじゃあ、後はよろしく」
「お疲れさまです」
悠は弘毅と連れ立って更衣室を後にした。
扉が閉まるのを確認し、要二は置いてある丸イスに腰をおろす。身支度は終わったのですぐにでも店に出られる。しかし要二はイスに座ったまま動こうとはしなかった。
――あれでバレてないと思ってるのかな。
彼らが付き合っていることにはとっくに気づいている。二人がそのことを言ってこないから気づかないフリを続けているが、そろそろ限界だ。いくらなんでもわかりやすすぎる。
特に悠に関しては要二に隠していることが後ろめたいのか、二人の関係を誤魔化すための小さな嘘をつくだひに、気の毒なほど申し訳なさそうな顔をする。それならいっそのこと言ってくれたらいいのに。しかし悠の性格を考えたらそれは容易なことではないのだろう。
「そろそろいいか」
要二はようやくイスから立ち上がった。これだけ待てば悠も落ち着きを取り戻し、弘毅も仕事に戻っているはずだ。
そっとドアを開けてみた。念のため厨房の様子を 窺うと、悠の姿はなく弘毅が一人で作業台の前に立っていた。
要二はドアを大きく開け、弘毅に歩み寄った。
「弘兄、明日のことなんだけど......」
背後に立ち声をかける。しかし弘毅は一点を見つめたままで、こちらに気づいていないようだった。
――何を見ているんだ?
彼の視線を辿っていくと、その先にいたのは悠だった。
悠はデザートパンが並んだ棚の前に立ち、真剣な表情でパンを吟味している。そしてようやくトングで一つパンを掴みトレイに載せたと思ったら、先程より険しい顔で再び棚を見つめ出した。要二も悠の動向を見守っていると、彼はそろそろとトングでパンを掴もうとし、けれど何も取らずに引っ込めて......という動作を繰り返した。どうやらもう一つ買おうかどうしようか迷っているようだ。
そういえば、少し前も同じようなことをしていた。理由は聞かなかったが、一時期悠はパンを食べなくなったのだ。もちろん弘毅もそれに気づき、とても心配していた。
その時の弘毅の様子を思い出し、要二は彼の硬質な横顔を見やる。
弘毅は棚の前で難しい顔をしている悠を鋭い眼差しで見つめていたが、悠が結局追加のパンを取らずにレジに向かって来たのを確かめた瞬間、フッと口元を綻ばせた。
要二はそのままレジに向かおうとした弘毅の肩を掴んで止める。
「オレがレジするから」
「なんだ、いたのか」
「いましたとも」
少々がっかりしている弘毅を残し、要二は自分の持ち場であるレジに向かった。
悠の買ったパンを袋に詰め彼に手渡す。平静を取り戻した悠は、いかにも仕事が出来るエリートサラリーマンといった雰囲気を漂わせていた。
「また来るよ」
紙袋を手にし微笑んだ悠に、要二も満面の笑みを返す。
「いつもありがとうございます。これからも、弘兄のことをよろしくお願いします」
要二がそう言うと、彼は驚いた表情をした後、顔を真っ赤にし、そしてすぐに真っ青になった。そのあまりの困惑具合になんだかかわいそうになって、「弘兄、あまり友達がいないから」と付け足した。
悠はホッとした表情で頷くと、逃げるように店を出ていった。
――二人にはこれからも仲良くしてほしい。
弘毅には幸せになってほしいのだ。これまで苦労をしてきたから。
厨房で黙々とパンを作っている弘毅をチラリと見やる。悠を見つめていた時のような柔らかさはもう消えていた。
――いつか言えたらいいな。
無愛想だけれど優しい従兄弟に。その彼を笑顔にしてくれた悠に。
ありきたりだけれど、末永くお幸せに、と伝えたい。
しかし彼らの口から真実を聞き、心から二人を祝福出来るその日まで、要二は知らぬフリを続けようと決めたのだった。



――――終――――











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2014年10月31日(Fri) | 裏話的な | TB(-) | CM(0)

「甘い恋」発売しました

初の新書、「甘い恋」が本日発売になりました!
お手にとってお読みいただけると嬉しいです(^^)

今日は次の記事に、後日談のショートストーリーをアップします。
本編読了後にこちらも合わせてお読みいただけたらと思います。

また明日は裏話的な記事をアップする予定ですので、興味のある方はチェックしてみてください(^^)


2014年10月31日(Fri) | お仕事情報 | TB(-) | CM(0)

お返しに

先日、遊びに来たお客様からケーキ&お菓子をいただきました~(*^^*)

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ハロウィン仕様です♪
ちなみにこれをパカッと開けた中身がこちら↓

20141030214120489.jpg


このお菓子だけでも嬉しかったのですが、さらにケーキとプリンまでいただいちゃいました(><)

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ヤバイです、太る予感(´д⊂)
とか言いつつ、ミルクティーまで用意してる私(^^;)

どれも美味しかったですが、特にプリンがメチャメチャおいしくてビックリしました! 今まで食べたプリンの中で一番かも!地元のケーキ屋さんのものですが、まさかこんなにおいしいプリンがあるだなんて知りませんでした!



こんなにたくさんお土産をくださるなんて、なんて太っ腹なんでしょう。
そんな神様のような(笑)お客様がふたたび我が家へいらっしゃるとのことで、ささやかですがお返しを用意しました。

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ブルーベリータルトです! フィリングに自家製ヨーグルトを仕様した、ベイクドタイプのタルトです。
このために、タルト型を買っちゃいました(^^) こうしてどんどんお菓子用品がふえていく......。

実は好物を聞いたら、「スルメ」って言われたんです。ですがスルメをドーンと出す勇気がなく、上のタルトを作った次第です。
家族にも好評で、お客様にも好評でよかったです。



2014年10月30日(Thu) | 雑談 | TB(-) | CM(0)

届きました♪

実は数日前に届いていたのですが、ブログにのせるのが今になってしまいました。

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今月末に発売する『甘い恋』が新書になって手元に届きました!!
おお~(・д・) 本当に本になってる。
↑というのが初めて手に取ったときの感想でした(笑)
たまたま近くにいた家族にも見せたのですが、「本になってるね」という一言が返ってきたのみ。相変わらず薄い反応でした(^^;) 他の家族もきっと同じような反応でしょう。
毎回思うのですが、家族より友人たちの方がいい反応を返してくれます。これ、私の場合だけですかね?(笑)


脱線しましたが、ようやく完成したという実感が込み上げてきました。
さっそく中もパラパラ。
おお~、すごい!! やばい!! むふふー(´。`)
と木下先生のイラストを見ながら一人ニヤニヤ。一足先に堪能させていただいちゃいました(^^)

帯に書いてありますが、秋のリンクスフェアの対象商品になっております。こちらのフェアでは小冊子がプレゼントとのこと。詳しくはリンクス11月号をチェックしてください。

ちなみに帯を外すと木下先生の表紙イラストの全貌が明らかに↓

20141027225638472.jpg

わお、おいしそうなパンが現れました!
とってもカラフルに、ですがふんわりした雰囲気に仕上げてくださいました! ありがとうございます!!


……こうしてブログの記事を書いていると、本が出るんだという実感が湧いてきました。
いえね、ちゃんとわかっていたのですが、「本当に自分の書いた本が本屋さんに並ぶんだなぁ」と改めて思いました。

発売まであと3日ですね。
ソワソワが止まらないです(>_<)
発売日の翌日に恒例の制作秘話的な裏話をアップしますので、よろしかったらチェックしてください。


2014年10月28日(Tue) | お仕事情報 | TB(-) | CM(0)

怒濤の

何の予告もなく怒濤の小説アップすみません(^^;)
ブログを新たに始めるにあたり、前のブログから小説をお引っ越ししてます。
まだ半分くらいしか引っ越しが終わってないので、今後もときどき小説を一気にアップする予定です。

それにしても、今回引っ越し作業をしていて思ったのですが、自分が思っていたより量があって驚きました。出来の善し悪しは別ですが(^^;)
書いたまま手つかずで放置してある物もあるので、お仕事も一段落したことだし、ぼちぼち見直し開始して近いうちにブログにアップしていけたらなぁ、と思ってます。
なるべく早くそう出来るよう努力します!

2014年10月27日(Mon) | 雑談 | TB(-) | CM(0)

先生の甘い罠~あとがき~

『先生の甘い罠』をお読み頂きありがとうございます。
あとがき的なものを書こうと思ったのですが、この小説を書いている時の記憶があまりないことに気がつきました(^ ^ ;)
というのも、確か三日くらいでバーッと一気に書き上げたような気がします。
なんだか変なテンションになっていて、執筆中にふと時計を見るといつの間にか4時間ほど経過していたり……。
すごい集中力で書き上げたように思います。
このお話は友人の書いた小説のスピンオフになっているので、世界観を統一するために友人に設定の確認を取ったりしたのですが、いつもメールするのが深夜2時過ぎ。
もちろんすぐに返信などなく、翌朝友人から『ちゃんと寝てる!?』と心配されたことも何度か……。
今だから言えるけど、実はほとんど寝ていませんでしたね(笑) なんか頭が冴えてしまい、布団に入ってからも寝付けなかったんです(> <)
もう続きが書きたくて書きたくてしょうがない状態でした。

『先生の甘い罠』は自分自身、とても楽しんで書いた小説です。
お読みくださった方も少しでも同じように感じていただけたなら幸せです。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。


2014年10月27日(Mon) | 先生の甘い罠 | TB(-) | CM(0)

先生の甘い罠・最終回



 目が覚めると、鈴木の腕の中にいた。
 はたと目をやると自分は全裸で、床に座った鈴木の膝の上に乗せられ、毛布で覆われていた。
「起きたか」
「ん……」
 喘ぎすぎて声が枯れている。それに少し肌寒かった。亘はモゾモゾと動き、鈴木の胸にぴったりと身体を密着させる。
「寒いか」
「ん、でもこうしてれば寒くない」
 鈴木がフッと優しく笑い、額にキスを落としてきた。
「制服を汚してしまったんだ。悪かったな」
 そういえば、下は脱がされたが上は着たままだった。何で汚れたかなんて聞かなくてもわかる。亘はカッと顔が熱くなった。
「そうだ、お詫びと言うほどでもないが、今度、服を買ってやろう。どこのブランドがいい?」
 鈴木の声は心なしか弾んでいた。特別服がほしいわけではないが、鈴木が楽しそうなので「ありがとう」と返した。
 もしかしたら、鈴木は人に物を買い与えるのが好きなのかもしれない。松村にも靴を買ってやったと言っていた。
 そこで大事なことを思い出し、亘はガバッと身を起こした。
「靴……」
「ん? 靴もほしいのか?」
 そうじゃない。亘はもどかしく思いながら首を振る。
「松村にも、靴を買ってやったって……」
 それもオーダーメイドで。それがどのくらい値が張るものなのかわからないが、きっと安くはないだろう。いくら鈴木がプレゼントが好きだとしても、何とも思っていない相手にポンと買ってやれる金額ではないように思う。
 ――やっぱり、松村のことを……。
 鈴木の気持ちを疑うわけではない。
 でも、彼が松村のことをどう思っているのか、気になって仕方なかった。
「松村のこと、好きだったのか?」
 意を決して質問したというのに、鈴木は一瞬キョトンとして、すぐに声を上げて笑い始めた。
「そういえば、ちゃんと言ってなかったな。松村と俺は従兄弟なんだよ。あの靴はあいつの入学祝に買ってやったものだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。悪かったな、不安にさせて。なんだか誤解しているようだったから、それを利用したんだ。俺が好きなのは君だけだよ」
 松村と鈴木が従兄弟と聞いて驚いたが、特別な関係ではないと知って安堵した。
「藤田は可愛いな」
「かっ……」
 頭をヨシヨシと撫でられ、頬にキスされる。
 自分で言うのもなんだが、顔立ちはとびぬけて綺麗とか可愛いというわけではないと思う。身体の大きさは平均より小さいから、そういう意味では『可愛い』のかもしれないが……。
 自分で考えて少し悲しくなった。
 亘は柔らかい笑みを浮かべている男をそっと窺う。
 男から見ても、整った顔立ち。優しげな容貌を持つ男は、男女問わずモテるだろう。
 そんな男が、自分のどこを好きになったのか、イマイチ疑問だった。
「俺のどこが好きなの?」
 おずおずと問いかけてみる。
 鈴木はフワリと笑うと、過去を回想するように目を細めた。
「最初に亘を見たのは、入学式だ。綺麗な金色の髪をして悪ぶって見えるのに、ちょと不安そうな顔をしていて、なんだか毛を逆立てた子猫みたいだなって思ったんだ」
「子猫って……」
 確かにあの時は舐められないように気を張っていた。髪の色を変えたくらいじゃ何も変わらないというのに、強くなった気になっていたのだ。
「君は予想通り不良グループに入った。でも、何か悪さする時、いつも少し罪悪感を滲ませた顔をしていたんだ。本当は、普通の優しい男の子なんだなって思った」
 確かに小山たちとつるんでいても、楽しいと感じることは少なかった。それどころか、嫌だと思う感情のほうが強かったように思う。でも、小山のグループを抜けたら、中学時代のようにいじめられそうで、弱い自分はその場所から抜け出すことが出来なかった。
「初めは髪の色のせいもあって目立つから気になるんだって思ってた。でも、次第に君を見かけると胸がザワザワして、一日中、君のことを考えるようになってた。……俺は年甲斐もなく、ひと回りも年下の男子生徒に恋をしてしまったんだ」
 なんだか聞いているこっちがむず痒くなってきた。鈴木の言葉はストレートで照れくさい。でも不快じゃない。もっと聞いていたいと思う。
 自分への愛の言葉を。
「君と話すために、色々と画策したよ。それであの日、君が松村の靴を投げるところを見つけて、ちょっと距離を縮めようと思ったんだ。でも……、少し話して終わりにしようと思っていたのに、止められなかった」
 鈴木がギュウッと抱き締めてきた。
「君にあんなことをして、後悔しなかったって言ったら嘘になる。でも、どんな形でもいいから……一度でいいから、君に触れたかったんだ」
「…………っ」
 胸がいっぱいで、言葉が出ない。
 これほどまでに想われていたなんて、全然知らなかった。
 自分は彼の何を見てきたのだろう。
 こんなに純粋な想いを向けられて、嬉しくて泣きそうになる。
 鈴木がそうっと頬に触れた。
「君を愛してるよ」
 駄目だ。
 こんな告白をされたら、涙が出て当然だ。
 ――苦しい。
 幸せで、苦しい。
 嬉しくても胸が痛くなるなんて、初めて知った。でもこの痛みは甘い。彼のおしおきのように、甘美な痛み。
 亘は鈴木の首に腕を回し、しがみついた。
 自分はそんなに頭がよくない。だから、彼のように綺麗な言葉で告白出来ない。
 亘は言葉の代わりにそっとキスを送る。
 彼は笑った。
 幸せそうに。
 きっと今、自分も同じ顔をしている。
 そう思うととても幸せで、亘はまた一粒涙を零した。


             ――――終――――


2014年10月27日(Mon) | 先生の甘い罠 | TB(-) | CM(0)

先生の甘い罠・12

※本文は以下に反転してあります↓

 初めてのキス。あの時はしてもらえなかった。
 脳みそがジンと痺れて何も考えられなくなる。
 角度を変え、何度も重ねられる唇。やがて舌が唇を割り、口内へと侵入してきた。
「ふっ、あっ……」
 歯茎をなぞられ、舌を吸われる。
 気持ちよくて膝から力が抜けていく。
「おっと」
 ガクッと膝が折れると、鈴木の腕が身体を支え直してくれた。立たなくちゃと思うのに、力が入らない。鈴木に縋りつく。すると突然、身体が宙に浮き、鈴木に抱き上げられていた。
「わっ」
 鈴木は危なげな様子もなく、亘を机の上に座らせた。
 亘が状況を把握しようとしている間に、彼の手によってベルトを外され、下着と一緒にズボンを剥ぎ取られた。
「ひゃっ」
 下半身をむき出しにされ、亘は咄嗟に手で隠そうとする。しかし鈴木は無情にもその手を振り払ってきた。
 シャツも捲り上げられ、鈴木に中心を凝視される。突き刺さる視線を感じ、亘は羞恥に耳まで赤くなった。
「恥ずかしいのか?」
 鈴木に真顔で質問された。コクリと頷く。
 彼はクッと笑い、亘の中心を指先でピンッと弾いてきた。
「あうっ」
「恥ずかしいのに気持ちいいの? 硬くなってる。見られただけなのにね」
「うう……」
 言い返せなくて唇を噛む。鈴木が身を屈め、その唇をチュッと軽く啄ばんできた。
「いやらしい子だね」
 その甘さを含んだ声に、背筋がゾクッとする。
「おしおきするの?」
「してほしい?」
「……うん」
 素直に頷くと、鈴木の瞳に妖しい光が宿る。この顔が好きだと思った。
 鈴木の整った顔に見惚れていると、いきなり後ろの蕾に触れられた。ビクッと腰が浮き上がる。
「どっちにおしおきしてほしい? 後ろと、前と」
「あっ、りょ、両方っ」
 どっちもしてほしい。そう言ったのに、鈴木は後ろばかりいじってくる。
「や……っ、前もっ」
「欲張りな子だ。どっちか一つ選びなさい」
 愕然として鈴木を見つめた。この間は両方してくれた。それなのに、今日はどっちか一つなんてひどい。
「両方、してほしいっ」
「我がままはダメだよ」
「そんな……、あっ」
 指が入り口をノックする。
 一週間前、そこをいじられた時は気を失うほど気持ちよかった。あの時の快感を思い出してしまい、亘は「後ろにして」と口にしていた。
「後ろか。じゃあ、今日は後ろをうんと可愛がってやろう」
 鈴木はニヤリと笑うと、床に膝をついた。そして机で仰向けになっている亘の膝を立たせると、ヒクつく蕾に舌を這わせる。
「ひっ」
 濡れた舌が蕾を舐る。彼が舌を使うたび、濡れた音が室内に響いた。
 あんな場所を舐められているなんて恥ずかしい。でも、とても気持ちよかった。
 亘の中心は限界まで張りつめる。
「中も……っ、あっ、中も、いじってっ」
 入り口だけでは物足りない。亘は腰をうねらせてねだっていた。
 鈴木が立ち上がり目を細める。
「いいよ。指と俺の、どっちがいい?」
「う……っ」
 それはもちろん、指よりあれのほうがいい。でも口に出して言うのははばかられた。
 亘はチラリと鈴木の中心部分に視線を送る。気づいたはずなのに、いじわるな男はなおも聞き返してくる。
「どっち?」
「……鈴木の」
「俺の、何?」
「っ……!」
 そこまで言わせるつもりなのか、と亘は恨めしそうな目で睨む。
 すると鈴木はスラックスの前をくつろげ、反り返った中心を取り出した。
 やっともらえると思ってホッとしたのに、鈴木は先端を蕾に当てただけで、それ以上動こうとしない。
「何がほしいか、ちゃんと言ってごらん」
「鈴木の……がほしいっ」
 亘は我慢も限界になり、やけっぱちで言い放った。
「いい子だね」
 鈴木は亘の頭を撫で、そしてようやく待ち焦がれたものを与えてくれた。
「あっ、うっ……、ああぁっ」
 ズルズルと熱い塊が突き進んでくる。亘はたまらずに自らの中心へと手を伸ばした。鈴木がしてくれないのなら、自分でするしかない。恥ずかしかったが、早く達したかった。
「ん? 何してるんだ」
「あっ」
 けれど目ざとい鈴木に見つかり、伸ばした手をペチッと叩き落とされてしまう。
「誰が触っていいと言った?」
「だ、だって……っ」
「悪い子だな。自分だけ先にイこうとするなんて」
 鈴木に両手を押さえ込まれた。亘は涙目で訴える。
「お願いっ、イカせて……っ」
「悪い子にはおしおきだ。俺がイクまで我慢出来るな?」
「無理っ」
 我慢なんて出来るはずない。この前だって、鈴木が達するまでに何回もイッてしまったのだ。
 亘は頭を左右に振った。
「俺も協力するから、頑張るんだ」
「ひっ、あぁっ、あんっ」
 鈴木はおもむろに腰を打ちつけてきた。そのまま激しく揺さぶられ、亘は背中を反らせて悶える。
 机の上にあった書類や筆記用具が、振動に耐え切れずに落下して派手な音を立てた。
「やぁ、イクッ」
 あっという間に絶頂感が込み上げてくる。亘は内腿を震わせ、目の前の快楽を追う。しかし、あともう少しというところで、鈴木は中心を引き抜いてしまった。
「あ、あ……、なんでっ」
「先にイクなって言っただろ」
「む、無理っ。イクッ」
 もうすぐなのだ。亘はなんとか達しようと身体を揺すった。けれど、前にも触らせてもらえず、後ろへの刺激もない。この状態では達することは不可能だった。
 亘が悪戦苦闘しているうちに、快楽の波が引いていく。
「あ……、あともうちょっとだったのに……っ」
 亘が恨めしそうに言うと、鈴木はようやく中心を中へ入れてくれた。そして散々揺すられ啼かされて、絶頂に手が届きそうなところでまたも引き抜かれる。
「やだぁっ、抜かないでっ」
「抜かないと、イッちゃうだろ」
「イきたいっ」
「おしおきなんだから、我慢しなさい」
 いくら訴えても、鈴木は折れてくれない。
 亘は何度も絶頂の波に襲われ、でも達することは許されず、気が狂いそうになった。
「んっ、あっ、あっ!」
「またイきそうか?」
「あんっ、んっ」
 亘は半ば意識を飛ばしながらも頷く。
「いいぞ、イッて。俺もイキそうだ」
 ようやくお許しが出た。
 亘は鈴木の腰に両足を絡め、その動きに身を任せる。
「はっ、やっ、あぁっ」
 打ち付けるリズムが早くなる。亘は強い快楽に眩暈がしそうだった。
「んっ、あ、あっ…………っ!」
「くっ……!」
 最奥まで貫かれ、熱い飛沫が叩きつけられる。その衝撃で亘もはちきれんばかりの中心から白濁を飛び散らせた。
「あ、あ……」
 何度もせき止められた快感は強く、亘は何度も中心から蜜を垂らした。
 呼吸するために開いた口に、鈴木の唇が重なる。
 激しく口内を蹂躙され、亘は至福に包まれながら意識を手放した。




         ――――続――――


2014年10月27日(Mon) | 先生の甘い罠 | TB(-) | CM(0)

先生の甘い罠・11


 ハラハラと涙を流していると、鈴木が困ったように背中を撫でてきた。
「……嫌だ」
 彼にこんな想いをさせたくない。大切な人には、いつも笑っていてもらいたい。
 でも、自分では彼を笑顔には出来ないのだ。それが辛くてたまらなかった。
「藤田……」
 鈴木がなぜか息をのむ。背中にあった温かい手が離れていく。
 面倒になったのかもしれない。理由も言わず泣き続けているのだ。そんな人間の相手、面倒に思っても仕方ない。だけど、彼に見捨てられたようで、亘は悲しくてまた涙を零す。
 しかし、鈴木はやや間を空けて、見当違いな言葉を口にした。
「俺に触られるのが、嫌なのか?」
 びっくりして顔を上げる。鈴木は続けて言った。
「あんなことをしたんだから、嫌われて当然だよな。俺の顔なんて見たくもないんだろう」
「ちが……」
「いいんだよ、わかってる。俺と会いたくないから、授業もサボってるんだろ。廊下で会っても、こっちを見ようともしないもんな」
 違う。いや、確かにそう思ったこともあった。でもそれは鈴木が嫌いだからじゃない。彼があまりにも以前と変わらないから、少し拗ねていただけなのだ。自分から無視して、彼の気を引きたかった。
「謝るべきなんだろうな。でも、謝ってやれない。俺は、ずっと君に触れたかったから。自分勝手だけど、謝ってしまったらあの時のことを『悪いこと』って認めることになる。そんなふうにしたくないんだ」
「どうして……?」
 思わずそう聞き返してしまった。鈴木の気持ちがわからないから。あの日も、今も、鈴木の気持ちがわからない。だから知りたいと思った。彼の本当の気持ちを。
 鈴木はフッと笑った。いつもの作り笑いではなく、まるで自嘲するかのような悲しい笑み。
「俺にとっては、大切な思い出だからだ。好きな子と初めて結ばれた、大切な思い出」
「す……き……?」
 たどたどしくその言葉をなぞる。
 信じられなかった。
 またからかわれているのだろうか。
 でも、彼の瞳は真っ直ぐ自分に向けられている。嘘をついている人間が、こんな目が出来るはずがなかった。
「好きだよ。ずっと君を見ていた」
 まさかの告白に、亘は言葉を失った。
 こんな展開、考えたこともない。突然のことで頭の回転が追いつかなかった。
 黙って鈴木を凝視していると、彼は悲しそうに笑った。
「君には迷惑な話だろうな。勝手に好きになられて、あんな強引な手段で身体を奪われた。君にはもう、近寄らないでおこうと思ってたんだ。これ以上、嫌われたくないからね」
 鈴木の手が自分に向かって伸ばされる。しかし指先が頬に触れるか触れないかのところでピタリと止まり、そしてそのままスッと下ろされた。
「……未練がましいな。もう行くよ」
 鈴木は何かを押し殺したような声でそう呟き、背中を向けた。
 遠ざかる背中。
 亘はいてもたってもいられず、その寂しそうな背中に縋りついていた。
「ま、待って」
「藤田?」
 鈴木の足が止まる。
 引きとめたはいいものの、これから先のことなど考えていなかった。
 自分も好きだと伝えればいい。そうすれば晴れて両想いになれる。自分も鈴木も、きっと幸せになれる。
 しかし、告白なんてしたことのない亘はどうしてもその一言が言えない。
「俺……、俺は……っ」
 ギュウッと鈴木の上着を握り締める。
 緊張して指先は震えていた。鈴木にもバレたかもしれない。
「俺も、す、鈴木のことが……」
 好き、と聞き取れないくらい小さな声で囁いた。
 恥ずかしくて全身がカアッと火照る。
 何か言ってほしい。それなのに、鈴木は無言だった。
 段々不安になってくる。もしかして、これはやっぱり冗談だったのだろうか。それとも、まだ松村の靴の件を根に持っていて、趣向を変えたおしおきをされたのだろうか……。
 考えただけで涙が出そうになってくる。
「こっちに来なさい」
「……え?」
 亘が一人落ち込んでいると、頭上から鈴木の声が降ってきた。
 何を言われたのかすぐに理解出来なくて聞き返すと、語気を強めてもう一度言われた。
「いいから、早く」
 モタモタしていると鈴木に手首を掴まれ、引きずられるようにして数学準備室に連行された。
 突然の展開に、亘は目を白黒させて部屋の真ん中で立ちすくす。
「鈴木……?」
 ドアに鍵をかけて戻ってきた男に呼びかけると、正面から思い切り抱き締められた。心臓が飛び跳ねる。
「あんまり可愛いことを言うな」
「可愛い?」
「廊下で抱き締めたくなってしまったじゃないか」
 背中に回された腕に力がこもる。少し苦しくて身動ぎすると、今度は口づけを落とされた。



           ――――続――――


2014年10月27日(Mon) | 先生の甘い罠 | TB(-) | CM(0)

先生の甘い罠・10


「ま、松む……」
「お前、確か同じクラスのヤツだよな」
 松村は自分とそう身長は違わない。それなのに、目の前に立った彼は、こちらが萎縮してしまうほどの迫力を放っていた。教室で見る彼とは全く違う顔。眼鏡の奥から、剣呑な瞳が睨みつけてくる。
「お前、さっきの見たか?」
 見た、と言ったら何をされるかわからない。今、目の前に立つ男は、自分の知っている松村ではない気がした。
 亘が口を閉ざしていると、松村は焦れたように舌打ちし、足を振り上げた。
 蹴られると思い、咄嗟に目を瞑りに身を縮こませる。ダンッという音が響き、ビクリと身体を震わせた。
「さっき見たこと、誰にも言うなよ。言ったら俺がお前を二度と口が聞けない身体にしてやるからな」
 恐る恐る目を開けると、松村の足は自分の横の壁を蹴りつけていた。恐怖で胃がキュッとなる。
「おい、聞いてんのか!」
「は、はいっ」
「もう一回言う。渡辺に何かしたら、ただじゃおかない」
 低い声で凄まれて、亘は首振り人形のようにコクコクと何度も頷いた。
 松村は納得したのか、足を下ろすと背中を向ける。スタスタと歩いていき、放り出した竹箒を手にして掃除を再開する。その姿は、いつもの陰気な松村に戻っていた。
 ――こっちが本当なのだ。
 亘はブルリと身震いする。
 さっきの松村が、本当の彼。黙々と掃除をする大人しく地味な生徒こそが、偽りの姿なのだと直感でわかった。
 ――強いと思っていた。
 小山にカッターを突きつけられた時も微塵も動じなかった。何をされても俯かず、真っ向から瞳を見返していた。ただ黙っていじめられていた自分とは違う。だからこそ、密かに惹かれていたのだ。
 きっと、彼は心だけでなく、本当に喧嘩も強いのだろう。小山たちなんか目じゃないくらいに。誰よりも強い。
 松村の本当の姿を、鈴木も知っているのだろうか。
 だから、あんなに執着している気がした。誰よりも強く、気高い。そんな瞳を持つ松村に、鈴木も心を奪われたのだろう。
 ――敵うわけない。
 そんな彼を相手にどうしろというのだ。
 自分は何一つ、彼に勝るところなどないのだから……。
 亘は覚束ない足取りで校舎に向かって歩き始めた。玄関に着き、上履きに履き替えて教室に向かう。
 ショックでどこをどう歩いているのかもわからなかった。ただ身体に『歩け』と命じて、教室へ戻ろうとしていた。身体を動かしていないと、どうなってしまうかわからなかったからだ。立ち止まったら、もう歩き出せない。
 夢遊病者のようにぼんやりしながら廊下の角を曲がる。すると向こう側から人影が現れ、出会い頭に衝突してしまった。
「おっと、危ない」
 体重の軽い亘は後ろに転びそうになった。そこを寸でのところで抱きとめられる。
「大丈夫か?」
「す……、鈴木……」
 ぶつかった相手は鈴木だった。
 彼は体勢を直すと心配そうに亘の顔を覗きこんでくる。
「怪我はなかったか?」
 久しぶりに自分に向けられた言葉。優しい声に、胸が痛み始める。
 ――彼は、松村のことが好きなんだ……。
 それは最初からわかっていたこと。知った時は、鈴木を嫌いだと思った。なぜなら自分も松村に惹かれていたから。恋敵だから、彼を憎く思ったのだ。
 でも今、亘の胸は、その時とは全く違う感情で溢れている。
 悲しくて苦しい。心臓が潰れそうだ。
 これは――失恋の痛み。
 この時、ようやく悟った。自分は鈴木が好きなのだ、と。
 たぶん、あの『おしおき』をされた時から。
 ひどいことをするくせに、優しく自分に触れてきた指先。向けられた言葉。笑顔。眼差し……。
 あの時、自分は恋に落ちたのだ。
 だから、何事もなかったかのような態度を取られ、腹が立った。自分を見てくれないことが悲して、彼を振り向かせようと躍起になった。
 もう一度、あの瞳で自分を見つめてほしかったのだ。
「っ……」
 ポロリと涙が零れた。瞬きをするたびに頬を伝い、ポタポタと床に落ちていく。
「どこか痛めたのか? 保健室に行くか?」
 彼は自分に優しい言葉をかけてくれる。それが嬉しいのに悲しくて、また涙が流れた。
 ――失恋がこんなに辛いなんて知らなかった。
 これまでも淡い恋心を抱いた相手はいる。どれも想いを伝える前に砕け散ってしまったが、その時は息が出来なくなるほどの痛みはなかった。
 鈴木を本気で好きだから、好きな分だけ痛いのかもしれない。
 ――彼もこんな想いをするのか?
 彼は松村に想いを寄せている。それもかなり強い想いを。
 だが、松村にはすでに渡辺という恋人がいる。だから鈴木の恋が成就することはない。
 彼がそれを知った時、今の自分と同じように苦しみを抱いて涙を流すのだろうか。



            ――――続――――


2014年10月27日(Mon) | 先生の甘い罠 | TB(-) | CM(0)