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『愛するということ』 ~お試し読み~

3月21日 J.GARDEN40 新刊です。

【あらすじ】
内科医の久我は過去に医療ミスを犯し、
地方の病院に飛ばされた。
その病院ではそこそこ上手く立ち回っていたが、
担当患者が次々に亡くなり、
周りから「死神」と呼ばれるようになってしまう。
悩んだ久我は酒に溺れていき、
そんな時に傍で世話をやいてくれたのが、
七歳年下の看護師・谷口だった。
谷口の献身的な看病で次第に気力を取り戻していくが、
過去に犯した過ちを忘れられず……。
医者物。年下攻め。シリアス。
A5 P44 400円 R-18

以下お試し読みです⬇





 空を見上げると雲ひとつない快晴。こんなに天気がいいと何もかも投げ出して、どこか遠くへ行きたくなる。
喫煙所とは名ばかりの裏庭のベンチに腰掛け、久我は空へ向かって紫煙を吐き出した。 食後の一服は格別にうまい。
至福の一時を堪能していると白衣の胸ポケットに入れているピッチが鳴り出した。緩慢な仕草でピッチを取り出し、表示されたナンバーを見て舌打ちする。
「病棟からか。……面倒くせえな」
そのまま通話ボタンを押すこともなく、鳴り続けるピッチを再び白衣にしまった。そのまま無視していると、一分ほどで静かになる。 やれやれと思いながら二本目のタバコに火をつけた。
今は休憩時間だ。勤務中はさぼることなく真面目に働いているのだから、休憩の時くらいゆっくりさせてほしい。
『もらっている給料分の働きはするが、それ以上の仕事はしない』
それが久我のポリシーだ。
何か特別な思い入れがあって医師という職業を選んだわけではない。ただ医大に行けるくらいの頭と金があったからこの職業に就いただけだ。仕事は生活するための金を稼ぐ手段で、そこに夢や希望は持っていなかった。
それなりの給料をもらい、それに見合った仕事をし、そこそこ遊ぶ。
そんな人生を望んでいた。

久我直也は今年三十四歳になる呼吸器内科医だ。以前務めていた大学病院と比べると規模は小さいが、中堅どころのこの個人病院で働き始めて六年になる。
難しい症状の患者は大学病院に回されるため仕事内容は単調が、スタッフの人数が最低限に抑えられているため、一人の医師が受け持つ患者数は多い。
この病院には久我も含め、常勤の医師が五人とバイトの医師が四人いるが、何かと呼び出されることが多く、久我の疲労と鬱憤はたまっていた。給料面では以前より優遇されているが、その分残業も増えたし、何より勤務時間外の呼び出しの多さには閉口している。おかげで女と遊ぶ時間もとれない。
そういえば最近、セックスしてないな、とふと思った。最後にセックスしたのは……三ヵ月も前だ。こんなに長く間があいたのは初めてかもしれない。
久我はこれまで女性関係で不自由したことはなかった。
医師という肩書きだけでも女たちは群がって来るが、それに加え久我は人よりも容姿が秀でていた。
身長は百七十五センチと平均的だが、西洋の血が少し混ざっているため、日本人離れした顔立ちをしている。かといってくどすぎることもなく、東洋と西洋が絶妙にマッチした華やかな外見で、色素も薄く髪は日に透けると綺麗な琥珀色になる。甘さを含んだ薄茶色の瞳で女性を見つめれば、労せず相手を落とせるほどだ。
端整な甘い顔立ちにバランスの良い肢体。口もうまいので女性は後から後から寄ってくる。そのため久我は特定の相手を作らず、それなりに遊んでいた。
けれど、このところ仕事が立て込んでいて禁欲生活が続いている。
今夜あたり、馴染みのバーで適当な相手を見繕うか、と算段していると、後ろから強い力で肩を掴まれた。短くなったタバコを危うく落としかける。
「久我先生、探しましたよ」
振り返ると、白いケーシーを着た背の高い男に上から睨みつけられる。病棟看護師の谷口友和だ。久我は面倒なやつに捕まった、と不機嫌さを露わに眉根を寄せた。
「先ほどからピッチを鳴らしてるんですが、気付きませんでしたか」
「悪い、音を消してたみたいで気付かなかった」 咄嗟に嘘をつく。
「ピッチには必ず出てください。患者の容態が急変した連絡だったらどうするんですか」 上から目線で説教され、少しムッとした。彼の言っていることが正論なのはわかっているが、看護師で、しかも七歳も年下の男に咎められるのは面白くない。ついつい意地悪く聞き返していた。
「一刻を争う急変なら院内放送すればいいだろう。人手が欲しい急変時に患者の対応もせず、お前は呑気に俺を探しに来るのか」
「今回は急変ではありませんので。けれど、医師として人の命を預かるご自分の立場を、もう少し自覚なさって行動されたほうがいいですよ」
口調は丁寧だが、言っていることは壮絶な厭味だ。他の看護師は意見を言うときも久我を立てるものだが、この男は思ったままを口にする。建前を知らない、本音しか言わない真面目で頭の固い男。この病院に勤め始めたときからの付き合いだが、谷口のことは最初から気に食わなかった。
確かに仕事は出来るが、こうも突っかかってくるのでは仕事がやりにくくて仕方がない。この程度の言い合いは日常茶飯事だった。
久我は不毛な言い合いにうんざりし、咳払いして話題を変える。
「……で、何の用だ」
「三〇五号室の西野さんですが、血管が細くて点滴が入らないんです。CVCを入れていただけますか」
「西野さん? 俺の担当じゃない。担当の先生に入れてもらえ」
「担当の田口先生が学会でお休みを取っているんです。今日の病棟担当は久我先生でしょう」
CVC――中心動脈カテーテルは、身体の深い位置にある動脈に入れる点滴の管で、表在静脈ではないので看護師には入れられない。それほど難しい手技でもないが、通常の点滴と違って手間がかかる。
自分の担当患者でもないのに面倒な処置はしたくなく、久我はため息をついた。
「なら田口先生が戻られたら、田口先生に上申して入れてもらえ」
「田口先生が戻られるのは来週です。それまで待てません」
心底面倒だったが、担当医師の留守中に患者が死ぬほうが面倒なことになる。久我はしぶしぶ承諾した。
「……わかった。すぐ行くから準備をしておいてくれ」
「もう準備してあります」
谷口の目線が『さっさと来い』と言っている。
「わかったよ」
言い返すのもわずらわしく、久我はフィルターだけになったタバコを灰皿に投げ入れ立ち上がった。

結局、その日も久我は夜遊びをせず就業後まっすぐ家路に着いた。
カテーテルは問題なく入ったのだが、その後に久我の担当患者の容態が急変し、今まで治療に当たっていたのだ。
その患者は肺炎で入院しており、抗生物質の投与で状態も落ちついてきたため、本人や家族に緊急時の対応について話しておらず、延命処置をするか否かの希望を聞いていなかった。勝手に人工呼吸器につなぐこともできず、かといって何もせずに死なせるわけにもいかない。
そのため家族が到着するまでの一時間弱、久我は看護師と代わる代わる心臓マッサージやアンビューバッグによる人工換気を続けるはめになった。
患者は家族がやって来て十分後に息を引き取った。患者が高齢だったため、家族が延命を希望しなかったのだ。ギリギリのところで命をつないでいたのに、家族の一言で久我の努力は無駄に終わった。
駆けつけた家族には死に水を取ってやれたと感謝されたが、久我の心は冷たく渇いていく。
人は誰しも最期を迎える。自然の摂理だ。
分かっているが、なら自分の仕事はいったい何なのだろう。
薬や機械を使って、自然の摂理を歪めて人生の終焉を少しだけ先延ばしすることに、意味はあるのだろうか。
久我は内科医で、他の病棟よりも患者に高齢者が多いからこそ余計にそう思うのかもしれない。もしまだ未来のある子供を救う小児科医だったら、もっとこの仕事にやりがいを見出せただろうか……。
そんな考えても仕方ない仮定の話ばかり頭に浮かんでくるのは、六年前の出来事がずっと心に引っかかっているからだ。
久我は自問自答しながら自宅マンションの鍵を開ける。独りで住むには広すぎる2LDK。ライフスタイルを重視する久我の自宅は、モデルルームのように綺麗に片付いている。家具も一つ一つ吟味して選んだ我が家は、普段はくつろげる空間のはずなのに、こういう日はなぜか寒々しく感じる。
久我は疲れて何もする気がなく、スーツのままソファーに寝転んだ。疲れていて眠りたいのに、目を閉じると瞼にあの日の光景が浮かんでくる。
忘れたくても忘れられない。 もう六年も経つというのに……。



     ~お試し読み終わり~
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2016年03月21日(Mon) | 同人活動 | TB(-) | CM(0)

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